Fahrenheit -華氏-


総務部総務二課の受付嬢たちだ。


彼女たちは早番なのだろう。明るい笑顔を振りまいて俺と柏木さんを見る。


「おはよう…」

「おはようございます」


良かった~


彼女たちは総務部のある9階のロッカー室で、受付用の制服に着替えるはずだ。


これで二人きりという天国…いやいや地獄からはとりあえずは救われた。


ほぅと思わずため息が零れる。


こんなんで俺、やっていけるのかな……





―――


その日の仕事は散々だった。


電話を取り違えるし、書類にハンコを押し忘れたり…と、とにかく小さなミスを繰り返した。


「どうしたんですか?部長」


佐々木が不思議そうに俺を見る。


「いや…何でもない。ちょっと具合が……」


心のな。


俺は恋煩いという名の大病を患っているわけだよ、佐々木クン。


「風邪でも引かれたんですか?顔色も悪いし」


そう言って柏木さんが何の気なしに俺の額に指を当てた。


か、柏木さんの指がっ!!!


カァッ!!


俺の体温が一気に上昇する。


「だ、大丈夫!!」


俺は思わず思い切り身を後退させた。


見るからに怪しいその行動に、柏木さんと佐々木がびっくりしたように目を開いていた。