Fahrenheit -華氏-


「自分のことを好きにならないで下さい…?それは、また……変な条件ねぇ」


綾子が眉を寄せて首を捻った。


「まぁ分からんでもないけどな。お前が今まで女に求めてきた条件と同じことだ」


そう……なんだよねぇ。


俺が女に求めてきたのは体だけであって、心じゃなかった。


でも同じように柏木さんが俺の体だけを求めているというようには見えない。


それを説明すると、裕二と綾子は揃って首を捻った。


「まぁあれだな?柏木さんが何を求めてるのか、何を考えてるのかってのは、その電話の相手がキーワードになってて、


それでもってジェニーが残していった謎の“色々あった”ってことに関係してるんじゃないか?」


裕二は早々に結論を出した。


出した……けど


その過去に“色々あった”ってことが分かんねぇんだよ!





俺は……


他人の内側を知ろうとするのが苦手だ。


知りたいとも思わないし、知ったところで自分がどうにかできるわけでもないことを充分に理解しているから。


深く入らない。


そうすれば他人の痛いところに触れないで済む。


そうやって生きてきたんだ。





―――でも今は違うな……



俺は柏木さんの過去に触れるのが怖い。


過去を知った俺を彼女に拒絶されるのが怖い……







恋は……人を大胆にもさせるけど、




同時に臆病にさせることもあるってこと…




初めて知った。