Fahrenheit -華氏-



「とにかく、その男のせいで恋愛はもうこりごりって思っちゃってるわけねぇ。かわいそうに……」


綾子が切れ長の目をしばしばとまばたかせた。


気のせいだろうか、目尻にちょっと涙を浮かべている。


「女はいつだって男の勝手に振り回されて…それで都合が悪くなったらあっさり捨てられる。いつだって傷つくのは女なんだから……


きっと柏木さん苦い経験をしてきたのね…」


身につまされる意見で。


俺たち男…特に俺と裕二なんかはそれの典型的なパターンだ。


今までだって女たちの気持ちなんて考えたこともなかった。


ただヤりたいときにヤる。


その裏で女たちがどれほど傷つき、どれほど涙を流したのか……俺には計り知れない。


でも勘違いしないでほしい。


世の中には佐々木や桐島みたいな誠実な男もいるわけで…


全てがこんな酷い野郎ばっかりじゃないことを―――知ってほしい。





「まぁどうあがいたって元の木阿弥だけどな。



俺と柏木さんが築き上げてきたもが……一気に崩壊したわけだ。



それとも―――そんなもん最初からなかったのかなぁ……」







情けなくもそんなことしか言えなくて、俺は立てた両膝に顔を埋めた。