Fahrenheit -華氏-



「………楽…ねぇ。ま、確かにあんたと恋愛するより遊びだって割り切った体だけの関係の方が楽かもね……」


「俺さ、聞いちゃったンだ」


「聞いた?何を……?」裕二が訝しそうに眉を寄せる。


「柏木さんが今朝電話してるのを。あれ…たぶん前の男だと思う。……電話の後、彼女泣いてた………」


「泣いて……あの気丈な柏木さんがね…」


裕二が考え事をするように首を捻った。


「まだその男のことを好きだとか?」


綾子がちょっと悲しそうに俺を見た。


まるで、「その気持ち、分かる」とでも言いたげだ。


「……いや、それは分からない。でも、柏木さん電話の相手に怒鳴ってた。好きとかそんな風には見えなかったけど…」


「何話してたんだ…?」


「分かんね。英語で、しかも早口だったから……内容までは…」


「てことは相手は外人?不倫してたのも、向こうでってことか?」


「不倫!?柏木さんがぁ!?」


綾子が素っ頓狂な声をあげた。


「いや、不倫かどうかは分かんねぇけど、まぁ思い当たるふしがあるし…そうじゃないかなぁって俺らが勝手に言ってるだけ」


俺は柏木さんのために弁解した。


こんなところで勝手に噂されて、しかも不道徳だとか思われちゃ彼女があまりにも不憫すぎる。


不憫……


なんで俺ここまで柏木さんのことに必死になっているんだろう。