Fahrenheit -華氏-


「てか何で回転寿司?」


せっかくの初デートだってのに……クスン…


色気もへったくれもねぇ。


「一度来てみたかったんです。向こうにはあまりないから。入ったこともないし」


そう言って柏木さんは白い頬をほんのちょっとピンク色に染めた。


「だめでしたか?」


ちょっと不安そうに眉を寄せてる表情も、何とも言えん。


だめ……―――な筈あるかい!!


そんな可愛い顔されたら、回転寿司でも高級寿司屋になるっ!!


俺って単純。


「俺、寿司好き~」と俺は柏木さんに笑いかけた。


柏木さんはほっとしたようにちょっと頬を緩ませた。





「回ってますね」


柏木さんはカウンターの前を流れる寿司のレールをもの珍しそうにじっと凝視してる。


「回ってるね」


二人分のお茶を淹れ、手際よくレールの上の炙り焼きトロを取った。


物珍しそうに柏木さんがその手の行方を見守っている。


「一貫食う?」


俺が皿を差し出すと、柏木さんは割り箸を割った。


「いただきます」


一口に入れ、もぐもぐと味わってる横顔も可愛かった。


俺もいただきま~す、と口に入れる。


ちょっとして柏木さんが俺の袖を掴んだ。


「え?」俺が振り向くと柏木さんは眉を寄せて、目尻に涙を溜めていた。


え?泣いてる―――……


てか、泣くほど嬉しいの??



「わさびが……」


柏木さんは苦しそうに鼻を摘んだ。



ああ…そういうオチね。





まったく…ことごとく俺のペースを乱してくれるよ…


このお姫様は。