Fahrenheit -華氏-


「遅くなってごめん。心細かったでしょ?」


俺は手を合わせて柏木さんに謝った。


「いえ……。えっと…そうですね。しつこいナンパにはちょっと迷惑でした。助けてくれてありがとうございます」


待たせたのは俺なのに…


柏木さん…優しいね。


じーんときながらも、俺は柏木さんに問いかけた。


「どこ行きたい?何か食べたいものある?フレンチとかイタリアンとか。あ、中華もいいね。俺、店いっぱい知ってるよ?飲みだったら車どこかに置いてくけど」


柏木さんは本をパタンと閉じると、


「あの…あたし行きたいところがあるんですけど」と遠慮がちに口を開いた。


いつもの柏木さんらしくない物言いだった。


でもしっとりおしとやかなその言い方、俺結構好きよ。


「どこ?」


俺はにっこりして聞いた。






「お寿司屋さんです」