Fahrenheit -華氏-


「あ~~~……俺、何であんなこと言っちまったんだろ」


カフェのテーブルに突っ伏して嘆きの声を上げる。


裕二には一連の出来事を歩きながら説明をしてある。


「言っちゃったもんはしょうがねぇじゃん」


と少し疲れが落ち着いたのか、コーヒーを飲みながら裕二がのんびりと言った。


こいつ…人事だと思いやがって…


『目先の利益にとらわれて、小口の契約をおろそかにしてるんじゃないか!?』


『馴れ合いは不必要』


思い返せば俺、結構ひどいこと言ったよなぁ。


「絶対柏木さん怒ってる。もしくは悲しんでる…は!今頃泣いてるかも…」


柏木さんの泣いているところを想像して(実際見たことがない)俺はガバっと起き上がった。


「…大丈夫だろ。柏木さんがお前に叱られたぐらいでしくしく涙を流す女かぁ?まぁ怒ってるってのはあるかもしれねぇけどな」


裕二はあくまで人事だ。


「…だよなぁ。俺とうとう嫌われたワ」


裕二が向かいの席から腕を伸ばして俺の肩をポンポンと軽く叩く。


お?慰めてくれてるのか?


なーんて思ったけど…


「大丈夫だ。とっくにお前のことなんて嫌ってるから」と憎らしいほどにっこり浮かべた笑顔に、俺は本気でコーヒーをぶっ掛けてやろうかと思った。