Fahrenheit -華氏-


「気持ちい~~~♪」


夜の環八通りをスピードを上げた車が走り抜ける。


助手席でユカちゃんは楽しそうに、髪をなびかせていた。


「あ~夢みたい♪憧れのBMWに、隣にはカッコいい男」


「ユカちゃんだって手が届くんじゃない?BMぐらい。それともキャビンアテンダントって結構儲からないもん?」


俺は会話のつなぎに何気なく聞いた。


「あー、うん……」


俺の質問にユカちゃんは言葉を濁した。


ちょっとだけ顔をユカちゃんに向ける。ユカちゃんは、バツが悪そうに下を向いていた。


なるほど…キャビンアテンダントってのは嘘ってわけね。


ま、俺にとっちゃどっちでもいいけどね。


佐々木、お前来なくて正解かも。


「変なこと聞いたね」


俺は何でもないように軽く笑った。


「ご、ごめんなさい。実際にキャビンアテンダントなのにはサヤカだけで…他三人はばらばら」


サヤカ?サヤカって誰だっけ?


正直覚えてない。


「キャビンアテンダントって言うと男の人喜ぶから…」


ユカちゃんは言い訳じみた声でもごもごと言った。


「いいって。俺は気にしてないし」


「でも啓人は神流グループ会長の息子なんでしょ?」


「うん。俺はそのまんま(笑)」


名刺は渡してないが、いつの間にか広まっていたってわけだ。