Fahrenheit -華氏-



恋をして夜も眠れねぇって、ホントにあるのか?


失恋して食欲がなくなるって本当にあるのか?


俺はそのどれも未経験だ。


別に経験したいとも思わねぇが。





「「ただいま~」」


俺と裕二が揃って席に戻ると、場が一気に盛り上がった。


「遅かったよ~」隣に座ったユカちゃんがちょっと頬を膨らませている。


女の子のこういう分かりやすく媚びてる仕草って好き。


「ねぇ啓人~」


ユカちゃんはワインを飲みながら甘ったるい声を出した。


「今日車なんでしょう?何乗ってるの?」


「BMWのZ4♪ハードトップ(自動で開閉する屋根)でオープンカーにもなるよ」


俺は明るく答えた。


「BM?すっごい!!カッコいい!乗りたい~~あたし、車も持ってないし憧れる☆」


何がかっこいいんだか…キミがそう思うのはBMWっていうブランドでしょ?


心の中では妙に白々冷え切っているが、俺はにっこり笑うとユカちゃんを覗き込んだ。


「今からドライブでもする?抜け出さない?」


彼女の顔に耳を寄せ、俺は周りのメンバーに聞こえないようそっと耳打ちした。


ユカちゃんはくすぐったそうに、あるいは恥ずかしそうに顔を赤らめると、


「…うん♪」と答えた。