Fahrenheit -華氏-



柏木さんが起業していたことは、以前から知っていた。


頭が良い人だから、不可能ではないと思ってたけど、まさかこんな大手とは思いも寄らなかった。


「ホント……何もんだよ」


裕二がぽつりとこぼした。


本当……ファーレンハイトって言やぁ畑違いの裕二でさえその社名を知っていたぐらいだ。


「これ?何年前の?」


「2006年創刊になってますね。今から五年前ですか…」


五年前って言うと柏木さんは19だ。


「最初から俺たちとは次元も違うし、住む世界も違ってたわけだ。だから六本木にあるマンションを買えたわけだな。納得」


と裕二が顎に手を当て、うんうん、と頷いている。


俺は無言で立ち上がると、パソコンデスクに向かった。


デスクトップ型のパソコンが置いてある。


電源は入れっぱなしだから、マウスを動かすだけでぱっと画面が明るくなった。


「急にどうしたんですか?」


俺は革張りの回転椅子に座ると、インターネットを開いて帝国データバンクに繋げた。


「それは五年前の話だろ?ここ最近あんまり名前を聞かない。っていうかほとんど……何でだろう?」


「……と、倒産しちゃった…とか?」


佐々木が言いにくそうに、もごもごと口を動かせる。


「いや…そんなんじゃない。柏木さんはパートナーに託してきたって言ったんだ。まだ存続してるのは確かだよ」


「業績不振?」


裕二が俺の背後で腕を組みながら聞いた。


「さあな。まぁ現状がどうなってるのか、調べられないこともないけど」


俺はカチカチとマウスを操った。