Fahrenheit -華氏-


「は?」


村木が間抜けな声で問いかける。





「この部署があってこの成績があるのは三人の力があるからです。誰か一人でも欠けたら現状には至らないでしょう」




柏木さんの声は相変わらず強弱がなく、淡々としていた。


頬の筋肉一つ動かさない、相変わらずの表情。


でも……


何だろう。何でそう思ったのだろう。


柏木さん、怒ってる―――?




「仮にも神流部長は以前はあなたと同じ部署で働いていたチームメイトでしょう。それなのに、異動になったからって、バカにする人についていきたいと思いません」


柏木さん……


俺は目を開いた。たぶん佐々木も…


「それに佐々木さんのことをバカにするのも止めて下さい。彼は仕事が遅いけれど真面目な性格で、常に一生懸命です。そんな内面を知らずしてよく上司の名が語れますね」


「柏木さん……」


佐々木が泣きそうに声を震わせた。





「私は神流部長を、部長としてお慕いしています。彼は決して部下を見下したり、無理をさせたりはしません。


それでいて部下のことをよく知り、長所を引き伸ばそうとする能力に長けています。


私のパートナーたちをバカにするのは大概にしてください」




柏木さんは一気に言い切った。


決して声を荒げたりはしない。一定のリズムを崩さない。


表情を変えない。





でも全身で怒りを露にしていた。



俺たちの為に、全霊で村木にぶつかってくれた。