Fahrenheit -華氏-


「確かに私には役不足かもしれません。柏木補佐に頼っているばかりですが、佐々木も随分活躍してくれて、かなり助かっています。今の成績があるのは二人のお陰です」


俺は静かに言い放った。


「ぶ……部長…」


佐々木が弱々しく顔を上げた。


「ははっ!佐々木がぁ?」


村木は今度は大げさに笑った。


何寝ぼけたことを言ってるんです?と問い返された気がした。


そして俺の横からひょっこり顔を出すと、黙って話を聞いていた柏木さんに目を向ける。


「柏木補佐。私の部署に優秀なあなたの力が必要です。今、人事に掛け合ってる最中でしてね、異動を申し出ているわけですよ。どうですか?こちらの方がずっと快適で環境が良いですよ?」


異動…?


何言ってやがる、こいつは!!


柏木さんは外資物流管理部の人間だ。誰がお前のところなんか……


と言いたかったけど、言葉にはならなかった。


この部署が柏木さんにとって快適なのだろうか。


親父に言われて渋々、という気持ちが少しでもあるのではないだろうか…





バン!



ふいに大きな音がして俺はびっくりして柏木さんを振り返った。


たぶん佐々木も、村木も驚いているに違いない。





「三人です」



柏木さんはちょっと眉をしかめて口を開いた。