炎の竜巻の中に何かいた。

 人影、奴だ、まだ生きている。

「そ、そんなバカな……」

 紅は頭にキていた。

 周囲を炎で囲まれていることさえ気にしていなかった。

 彼女の頭の中にあったのは、ただ、ジパドへの怒りだけだった。

 こいつら全員消し飛ばす!

 紅の目の前に小さな小石が浮かび上がった。

 小指の先程もない、礫《つぶて》だ。

 しかし、その小石はそこに在るだけで力を秘めていた。

 薬法師の能力の神髄は、物の本来あるべき力を引き出してやる事だ。

 その意味で、紅は天性の素質があった。

 だから、若くして七つの黒真珠を手にすることができたのである。

 そして、その素質が暴走すれば……

 紅は小石のただそこに在るだけという存在に秘められた力を一気に開放してやった。

 つまり、その小石の全質量を純粋な熱エネルギーに変換したのである。

「なに?く、ぐわぁっ!」

 強力な光球が一瞬にして膨れ上がり、ジパドの僧兵を、ラムヤを、広場を、滝を、黒鳳天草花の群生地を、そして黒鳳谷の約半分を飲み込み、焼き尽くし、出現と同様唐突に消え失せた。

 文字通り、後悔する暇もなかったようである。

 後には広大な焼け爛れた地面しか残らず、その中心に放心状態の紅がただ一人立ち尽くしているだけだった。