ザハの後ろを歩いていた紅は襲撃に気付くと即座に結界を張った。

 自分の血を吸わせてあるタモの種に呪を含ませて、周囲に蒔く。

 タモの種は地に触れた瞬間に、爆発的に発芽、成長し、タモの細い網状の枝が紅とその後にいる荷役のツギンを取り巻いた。

 しかし、毒吹矢の第二波は、一瞬早く到達した。

 タモの密集した枝によってほとんどは絡め捕られたが、幾つかが結界を潜り抜けた。

 それがツギンに命中する。

 ツギンは毒吹矢を胸に受け、背負子を背負ったままその場で絶命した。

 その顔は鬱血し、力のない双眸が恨めしそうに紅の背を見詰めていた。

 ここは深い森の中の一本道である。

 谷の奥部にある聖地への巡礼のための道だ。今は巡礼期ではないので、誰も通らない、物好きと、ジパドの者以外は。

 高木が天を突くように立ち並び、大人が三人も並べば一杯になってしまう狭くも広くもない踏み固められただけの道は純粋な殺気に満ちていた。

 感情から来る殺気ではない。ただ、純粋に、作業の一貫として家畜を屠殺するのに似ている、機械的な殺気だ。