七つの黒真珠の首飾りを持つ女薬法師・紅《くれない》は、黒鳳谷に入ってすぐ、狂信者どもの襲撃を受けた。

 黒鳳谷は、トルバキア大陸内陸部平原の南西から始まる亜門山脈の奥深い山ひだの一つである。

 そして、亜門山脈の麓周辺に古くから伝わる土着信仰、ハダ密の聖地の一つであり、ハダ密内における狂信的結社ジパドの本拠地でもあった。

 紅にとって、その襲撃は当然予想されたものであ
った。

 だが、狂信者どもの襲撃は、予想外の卑劣さだった。

 それは、この探索行のために雇った三人の従者の内、案内役として現地で雇ったラムヤという男の裏切りで始まった。

 いや、裏切りではない。ラムヤはもともとジパドの一員で、谷に入ろうとする者たちにわざと潜り込み、ジパドの襲撃を成功させる役を担当していたのだ。

 雇うときに気付かなかった紅の失策だったが、確かにラムヤ以上に谷の地形に精通している者もいなかったのだ。

 最初に、先頭を務めていたラムヤが、不意に深い茂みの中へ姿を消したとき、その後ろを歩いていた大男の戦士ザハは、その巨躯を活かすこと無く、身体の前面に毒の吹矢を打ち込まれ、立ったまま絶命した。