ただ風のように



翔くんと先輩はお互いにお礼を言いあうようにお辞儀した。


「翔」


「母さん、買い物いってきたの?」


そこに買い物袋をもったお母さんが帰ってきた。


「ええ。そちらの方は?」


「はじめまして。西高バスケ部主将の安西海頼です。夏々海さんにはよくお世話になっています」


翔くんが答える前に海頼先輩が自己紹介してくれた。


「はじめまして。これにお世話になっている?冗談でしょう。これが安西くんに迷惑かけて申し訳ないわ」


「いえ、俺のほうが夏々海さんに迷惑かけていて申し訳ないです」


「安西くんは人がいいのね。これが少しでもあなたに迷惑かけたらすぐにでも怒っていただいていいですからね」


お母さんは私の存在をほとんど無視して海頼先輩にそう言った。


「母さん、家に入ろう。海頼くんと夏々海は話があるらしいから」


翔くんはお母さんを連れて家の中に入っていった。


「夏々海、大丈夫?」


「慣れてますから、平気です」


私は笑顔で言った。


「哀しい顔してる。つらいときはさ、つらいって言ってもいいじゃん。泣きたいときは泣いてもいいじゃん。無理して笑うな」


「せん、ぱい」


「俺の前で遠慮なんかすんな。泣きたいときは泣け。言いたいことは言え」


先輩は私の腕をつかんでそう言ってくれた。私は先輩の言葉を聞いて安心して泣き続けた。