ただ風のように



「先輩はどうしてこんなに私に優しくしてくれるんですか?」


私はあの日、家に帰ってからずっと考えていたことを聞いた。お互いのことをまったく知らないのに家に泊めてくれたり、優しくしてくれる理由が少しも分からなかった。


「さっきさ、俺の過去の話しただろ?」


「はい」


「これはその時の傷跡」


先輩はリストバンドをはずして私に左腕を見せてくれた。先輩の左腕には重なるように古い切り傷の跡が残っていた。


「これって」


「そう。君と同じようにあのころの俺は自分を傷つけずにはいられなかったんだ。だから、自分のことを傷つけて泣いているお前のことを助けようと思った。それだけだよ」


「先輩は優しい人ですね。ありがとうございます」


私は先輩の言葉がすごく嬉しくて先輩を見てそう言った。


「そうかな?でも感謝されて悪い気はしないな。どういたしまして」


私たちは微笑みあいながら私の家までの道のりを歩いた。