ただ風のように



「……俺は、俺の家族の誰とも血が繋がってないんだ」


一瞬、何を言われたのか私の頭では理解できなかった。


「それじゃ、先輩は……養子ってことですか?」


「うん。俺は日本人の母親とロシア人の父親の間に生まれたハーフなんだ。父親は俺が生まれてすぐいなくなったらしい。母親はもともと心臓に病気があったんだ。1人で育てるのは無理だと思ったらしくてね。高校時代の同級生だった父さんと母さんに俺を預けたんだ」


「……今、先輩の本当のお母さんは?」


哀しそうな目で笑う先輩に私は恐る恐る聞いた。


「俺が1歳になる前に亡くなったって聞いた。父親は今、ロシアにいるって父さんに教えてもらった」


「先輩はいつ、この話を聞いたんですか?」


「中学1年の冬かな。たまたま南央が、生まれたばかりの俺と父親と母親が写ってる写真を見つけてきたんだ。俺の顔は父親にそっくりだったから、父さんに聞いたら今の話をしてくれた」