「…」

いつもの風景の中、いつもの道を歩く。

そして、辿り着いた学校を僕は見上げた。

先日の魔神ステイタスとの戦いの傷跡は、残っていない。

アルテミアが、修繕したからだ。

(この世界に、魔神が来ただなんて…やっぱり信じられないな)

「…」

足を止め、校舎を見上げる僕の横顔を、じっと見つめる明菜。

「おはよう!沢村」

そんな明菜の横を、演劇部部長中山美奈子が通り過ぎた。

「ぶ、部長!おはようございます!」

慌てて頭を下げた明菜に笑いながら、美奈子は言った。

「今度やる台本ができたから、後で部室に取りに来いよ」

「え!もうできたんですか!?」

驚く明菜の目が、遠ざかる美奈子の手の中で丸まった台本をとらえた。

「部長!見せて下さい!」

と言ってから、明菜は僕に顔を向け、

「こうちゃん。先行くね」

急いで美奈子の後を追った。

「ああ…」

僕は頷くと、ちらっと明菜の後ろ姿に目をやった。

(やっと平和が戻ったんだ…)

そして、視線を自分の左手の指輪に移した。

前に、美奈子がこの指輪をはめた為に、異世界へと意識が飛んでしまう事件が起きたのだ。

勿論、何とか助け出すことができた。

しかし、その時…僕は、アルテミアの涙を見た。

(あたしは、人間だ。お母様と同じ…人間)

(違う!)

ステイタスが、僕の頭の中で否定した。

(やはり、お前は人間ではない!我ら魔族の頂点に立つ…魔王の牽族だあ)



「クソ!」

僕は吐き捨てるように言うと、学校へと歩き出した。

その様子を、電柱の影に隠れて見ている女がいた。

腰まである黒髪の女が…。

「うん?」

妙な気配を感じ、僕は足を止め、振り返った。

しかし、その時には…女はいなくなっていた。

「?」

妙に柱の影が気になったが、普段の僕にわかるはずもなかった。

すぐに前を向くと、歩き出した。

すると、再び柱の影に女が現れ…じっと僕の背中を見つめていた。