「助かった…」

安堵の息を吐いた僕に、アルテミアは舌打ちをすると、町の端を見た。

「チッ。何もかも気に入らない!」

と言うと、僕と夕美が入ったビルを目指し、ジャンプした。




その頃、町を離れ…一気に海まで出たマリーは、海中から飛び出して来た鯨に似た魔物の上に、着地した。

「おかえりなさいませ」

ざらついた魔物の表面で、跪くのは…水の騎士団長、カイオウであった。

その前に着地したマリーは、カイオウを見ずに口を開いた。

「確かに…あの町に、アルテミアの従者がいた。それは、感じられた。しかし!何かが違う」

マリーは、顎に手を当てた。

「さすれば…アルテミアが、幼少の時に、従者にした者がいたのでは?もしくは、我々を裏切る前…」

カイオウの考えを、マリーは遮った。

「もうよい!」

ギロッとカイオウを睨むと、

「もし従者がいても、我々の脅威にもならぬわ!それは、アルテミアも同じ!」

その横を通り過ぎた。

カイオウは深々と頭を下げると、ゆっくりと頭を上げた。

(今のアルテミア様では、マリー様やネーナ様の足下にも及ばない。しかし…)

カイオウは、海の向こうを見つめ、

(あの方の血を引き、あの方に似ているアルテミア様に…恐怖を感じておられるのは、確か。それが、無意識であろうと)

鯨に似た魔物の背中が、半分に割れると、階段が姿を見せた。

マリーが下りると、背中はもとに戻った。

カイオウは立ち上がると、陸地に向けて深々と頭を下げた。

そのまま…海中に沈んでいく魔物と一瞬に、カイオウは海の中に消えた。

巨大な影は、下から浮かんでくる泡が少なくなると、まったく空からも見えなくなった。