天空のエトランゼ〜蜃気楼の彼氏〜

「あ、あ、あ、あ」

何かをしゃべろうとしていたが、全身が腐っている為に、言葉にならなかった。

僕はゾンビから距離を取ると、カードを手にして、炎の鞭を指先から発生させた。

しかし、ゾンビは僕を見ることなく、隠し扉となっている壁を叩いていた。

どうやら、上手く開けられないらしい。

「ど、どうなっている?」

僕は、鞭を振るう体勢のまま…固まってしまった。

そうこうしている内に、壁が再び回転し、夕美が姿を見せた。

ゾンビは回転した壁によって、バランスを失い、尻餅をついた。

「あっ!」

夕美を見て、僕は階段を上ろうとしたが、夕美の持つカードから発動した光線が、階段を破壊した。

「わっ!」

爆風と破片を避ける為に、炎を鞭から盾に変えながら、後ろにジャンプした。

唯一の脱出路を断たれた僕は、躊躇いながらも、地下街の奥へ走り出した。

「ゾンビの巣なんだよな」

わかっていても、仕方がない。

自ら地獄に向かう僕に、夕美の追撃がなかったのは、理由があった。

「和馬」

尻餅をついたゾンビを見て、動けなくなっていたのだ。


「ったく!」

カフェの看板を越えた辺りから、死臭が鼻についた。

後ろに戻る訳にもいかなかった。

前に進むしかない。

しかし…。

「ゲッ」

突き当たりから、左右に伸びるメイン通りについた時、僕は足を止めた。

どちらにも、いけなかったからだ。

数え切れない程のゾンビが、うじゃうじゃいたからだ。

「突っ切るか?」

炎の出力を上げようと、両腕を突きだした僕は、左手の指輪が輝いていることに気付いた。

「あっ」

僕は目を見開くと、叫んだ。

「モード・チェンジ!」

指輪から放たれた光が、僕を包み…さらに地下街を照らした。

次の瞬間、光の玉が地下街の天井を突き破った。

そして、土に穴を開けると、一気に地上へと飛び出した。