「血塗れの谷のことを言う」

「血塗れの谷?」

その直接的なネーミングを耳にして、僕は顔をしかめた。

「バンパイアのゴミ処理場だ」

「バンパイアって!」

ロバートの言葉に、僕は思わず足を止めた。

脳裏に浮かぶ…マリーとネーナ。

そして…黒い蝙蝠の羽を広げた…アルテミア。

「バンパイアと言っても、眷族の方だけどな」

「え」

僕の頭に浮かんだ映像は、すぐに消えた。その代わり、新しい謎が生まれた。

「眷族って何ですか?」

「眷族とは、真のバンパイアに血を吸われて、彼らの下僕になった者達のことさ。普段なら、食料として血を吸われて死ぬだけの人間を、何らかの理由で生かしているんだ。有名なので、闘竜拳の…」
「え!その人達は、人間何ですか?」

思わず説明の途中を妨げ、声を荒げてしまった僕に、ロバートは軽くため息をつくと、

「もう人間ではないよ。人の血を求める魔物になってしまう。その禁断症状は、理性を凌駕する。それに、眷族は必要以上に血を吸う。その理由は、簡単だ。彼らは、親のバンパイアの倉庫でもあるさ。生きた血の倉庫」

「…」

僕は、唾を飲み込んだ。

僕の考えでは、バンパイアに吸われたものは、バンパイアの仲間になると思っていた。

単なる倉庫で、禁断症状が激しいなんて、嫌である。

「夕刻の谷とは、眷族が血を吸った死体を捨てる場所のこと。だけど…どこにあるのか…。それに、バンパイアの眷族は最近珍しいんだ。今の魔王は、人間を滅ぼすのがメインの為、眷族をほとんど作らない。知っているので、1人だけだ」

ロバートはそこで再び悩むと、

「だとすれば…娘の女神達か?」

また首を傾げた。

「だとすれば…夕刻の谷って、やつにいけば…女神に遭遇するかもしれないと…ひえ!」

自分で言って、身を震わせた。

「その女の子は、夕刻の谷で彼氏を失ったと言ったんだね?」

ロバートは確認するように、僕に訊いた。

「はい」

「だとすれば…彼氏は、眷族の被害者か。何らかの魔法で、君に頼んでいるんだろうな。彼氏を殺した眷族を倒してほしいとね」