「お前……泣いてんの?」


五十嵐がこっちを見て言って来る。
気付くとあたしの頬は、涙で濡れていた。


また五十嵐に泣いてる所を見られてしまった。


「なっ…泣いてなんか……ないよ……」


あたしはバレバレの嘘をついて、頬の涙を拭った。


「姫月!ごめんね、遅くなって」


美津菜が息を切らしながら、ドアの向こうに立っている。
きっと此所まで走って来てくれたのだろう。


「平気。行こっ」


あたしは急いで教室を出ようとした。


「織原!」


突然五十嵐に呼び止められ、つい足が止まってしまった。また何か言われるのだろうか、とあたしは警戒しながら五十嵐の言葉を待った。



「さっきは悪かった。言い過ぎた」


意外な一言に一瞬耳を疑ったけれど、あたしは笑顔で
「ありがとう」
とだけ言って、後夜祭へ向かった。