私が彼の子供を
身ごもったことを知った時…
彼の身にもまた刻々と
迫り来る不吉な前触れが
起きていたことに
私は何も知らなかった

そしてそのことが
これから私達に襲いくる
別れを告げる鐘が
鳴り響こうとしているとは
予想さえしなかった

私が彼の誕生日を祝ってあげた
翌日から彼は変わらずに
毎日部活に励んでいた

『はい、一本』と
マネージャーの菜穂子は
空太に声をかけた
彼は彼女の合図で走り出す

『空太君、だいぶタイム縮んだね。このまま行けば、自己タイムいい成績でるよ』と
彼女はタイムが書かれた
ボードを見ながら彼に話す

『ありがとう。もう一本よろしく』と
彼は言うと素早く
定位置に戻ろうと走る

バタン―っと大きな音と共に
足が縺れて彼はその場に倒れ込む

『空太君、大丈夫?何だか最近よく転ぶね。怪我しないように気をつけてよ』と
彼女が言うと
『悪い、大丈夫だから』と
彼は苦笑いをしながら
再び走り出した

『何だ、またコケてるし。昨日彼女が来て、ふぬけてるんじゃないのか?』と
彼の後ろから達也が
笑いながら声をかけた

『うるせ~』と
彼は軽く流すとまた走り出す