マンションの前に、大幅に車道にはみ出した1台のバンが停まっている。
見たことがない車だ。
何より、駐車場への私道を塞ぐように止まっていてどうにも邪魔だ。

バイクをすぐ後ろに止め、俺はバイクから降りた。
一見車内に人影は見当たらない。

「めんどくせーな、誰だよ」

バンはカーキ色のジープチェロキー。ナンバーは福岡。

「福岡ー?」

かなり年季の入ったその車の窓ガラスにはスモークが張られていて、俺は顔を近づけて中を見た。
後部座席に銀のアタッシュケースと、18ホールのマーチンのブーツが置いてある。
奥の席には黒いコードのようなものが乱雑に置かれている。
そして何より、車から漂う鼻に残る甘い匂い。
何か変な草でも吸ってやしないかと、俺は少し警戒しながら運転席を覗き込んで、目を疑った。

黒い革のシートの上に真っ白い女の脚だけが見える。
右足はギアの方に放り出され、爪は黒く塗られている。
女の脚は艶かしい、というより本当に蒼白で不健康そうで、俺は思わず強く助手席をノックした。

「すんません、あの」

女の脚はピクリとも動かない。
死んでんのか?俺は運転席のドアに手をかけた。
ドアはあっけないくらい勢いよく開き、それと同時にだらりと、真っ白い女の腕から身体ごと落ちてきた。
咄嗟にその腕を支えた瞬間、思わずうわ、と声が漏れる。