ジュヨンさんがピアノの前に立つと、拍手が沸いた。


「ミナサン、コンニチハ。カン・ジュヨンデス。キョウハ、ミナサンニ、カンシャヲコメテ、エンソウシマス」


ジュヨンさんは日本語で、挨拶をした後。
お辞儀をして、ピアノの椅子に腰掛けた。



ポロン――――……


演奏が、始まった。



だけど、正直。
何も耳に入らない。


ピアノのすぐ側に座っている、(婚約者)ユ・ジナさんが気になって――。



それに……。

時折、2人の視線が重なり合っているように見えた。

その度に、胸の奥がジリジリと痛んだ。
 



「ちょっと来て」

ふいに、腕を掴まれた。