「先輩?」


どうしたんだろう?



「いや……、実は、この患者さんなんだけど、身元が分からなくて困ってるんだ」



「えっ? どういう……」


私は先輩の方を見る。



「この患者さん、記憶喪失なんだ」



「!!!」




「1か月前に、事故で――」



「え!?」



記憶喪失……。



じゃあ、自分が誰なのか――。

分からないの?


「…………」


だからかな?
何も話してくれないのは……。



「木崎――、『あしなが』さんって、この人の名前なの?」

先輩がもう一度、聞いてきた。




「違いますっ。何度話しかけても無視されちゃって……

だから、勝手に名前を――。


単純に、足が長い人だから、『足長さん』って……」



私が呼んでるだけで……。



「何だ、そっか。知り合いってわけじゃないんだ……」



先輩が残念そうに言った。