「そんなの理由になりません!!」


「そ、そうです!!俺達には理由を知る権利があると思います!!」



それでも食い下がる、血気盛んな後輩達。





そんな彼らを見てさらに深くため息を吐くと


「詳しくはプライバシーに関わる問題だから言えないが…
こんな中途半端な時期に辞任を許す理由があるのだと、察して欲しい。」


そう、専務は静かに言葉を発した。





「自分勝手な理由でアイツはこの会社を去ったワケじゃない。
アイツは…そんな責任感のないヤツじゃない。
私たちが辞任を認めるほどの…よっぽどの理由があったのだと、理解してくれるとありがたい。」


「そんな!!そんな理由じゃ納得いきません!!」


「……君たちには本当のことを伝えられなくて本当にすまないと想っている。
だが……、仕事よりも会社よりも、アイツの命を想っての判断だったとだけ、君たちには伝えさせてもらいたい。」





そう言って。
瞳にうっすらと涙を浮かべながら、専務は広報部を後にした。






どちらかと言えば、昔かたぎな専務とは仲の悪かった、桐谷慎。
早坂さんの件では、部署に怒鳴り込んできた時だってあるくらいなんだ。





そんな人が…
涙を浮かべて、苦しそうに言葉を紡ぐ。




それだけで、この部屋にいる私たちは、なんとなく理解した。



なんとなく。
なんとなくだけれど桐谷慎が会社を去ることになった理由を察して……




私たちは言葉をなくした。