電気一つ。
明かり一つ灯っていない、暗い部屋。
玄関にあるはずの靴も
写真も
カーテンもじゅうたんも
部屋の中には何もない。
「な…に…これ……。」
目の前で起こっている事件が信じられなくて。
ヨロヨロと立ち上がり、部屋の中にゆっくりと入っていく。
リビングの中にはダイニングテーブルも、ソファーも、本棚も何もない。
桐谷慎のお気に入りのワインセラーも冷蔵庫も、何もない。
あるのはただの白い壁と、何もない、ただの部屋。
何もない。
カレを形作る痕跡が、この部屋には何一つ見当たらなかった。
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