「私はエレクトーンのレッスンやねん」
そう言うと彼女は楽譜が覗いたトートバッグをちょっと持ち上げて見せた。
「エレクトーン? そんなん習ってんの?」
「うん、緩々とな」
「へぇー、藍はそういうキャラやったんか」
「え、どういうキャラ?」
「そういうのを習ってる子はお嬢様やろ」
「わはは、何かの厭味?」
拗ねてるくせにエレクトーンに食いついて来る悟は、子供みたいで可愛らしかった。
「子供の頃習っててずっとやめてたんやけど、私部活やってないやんか。
なんか自分には何にもないような気がして、また始めてん」
「何にもないって?」
「ユキもマリアももっと生き生きと充実して見えるもん。
私はあかんな…。そうやって人を羨むこと自体、自分がしょうもないっていう証拠やもん」



