「うん。」 いつもそう、大塚は私に怒らない。 どんなに意地悪をして神経を逆なでしようが、私を嫌ったり私を無視したり何もぶつけてくれないから彼を嫌いになれない。 切なそうにする彼に自分が切なくなる連鎖は変わらない。 ……――それで良かった。 音程がぼやけた予鈴が生徒の背中を机へと促し、スリッパの音が響いている。 教室は狭くて広い私たちの記憶を作る大切な場所で、青春そのもの。 それを知るのは卒業してから、制服を脱いでからで、今はまだ今の儚さを私たちは分かっていないのだ。