切ない純愛崩れ


名もなき生徒は教室にある前方ドアの前で、私たちに向かって手招きをしていた。

近藤さんと呼ばれた訪問客を目にした結衣は、途端に頬を緩ませる。


「行ってきな?」

私たちと雑談中だったけれど、来客を優先するよう促せば、

母親が公園に子供を迎えに行き再会した時のような幸せいっぱいの笑顔を残し、

「ちょいと失礼」と、彼女は席を立った。


自然に起こった風が鼻を掠める。

どうして可愛い子はやたら甘い香りがするのだろうか。

香水とは違うそれ――甘ったるい味がなぜか舌先に転がる。

同性でも意識してしまうのだから、きっと異性の大塚は大変ときめいていることだろう。