≪今からそっち行く≫

木下くんはいつもと変わらず私に喋りかけてくる。
私も返事を返すけど、やっぱり元気になれなかった。
そんな時、椎名くんからメールが来た。

「あ…」

その内容を読んで少しだけ、元気になった。

「なに?彼氏?」

木下くんは、私の変化に気付いたのか、そう聞いてきた。
彼氏……

「彼氏…ではない」

「じゃあ好きな人?」

私は“うん”と言うのが恥ずかしくて、コクリを頷いた。
それを見て木下くんは鼻で笑う。

「星夏ちゃんも好きな人には弱いね。まぁ皆か」

「木下くんは…いないの?」

「んー俺?俺は病気だし…恋したって意味ないから」

素気なく、軽々とそんな事を口にした木下くんだけど、…やっぱりどこか寂しそうに言った。
私と一緒だ。

「でも、するだけなら良いんじゃない?叶わなくても、相手を好きになるって幸せな事だよ」

私は笑顔でそう言った。
木下くんに言ったつもりなんだけど、やっぱり自分に言い聞かせてる気がする。

「そっか。そうだな。んじゃあ!俺も誰か好きになろーっと」

木下くんも笑顔になる。

なのに…どうして胸が苦しいんだろう。
私は自分の胸を抑えた。
きゅーっと締め付けられる。
それは嬉しい痛みなんかじゃない。
苦しい痛みだった。