「そーう、良かったわね」

お母さんに、さっそく星の事と椎名くんの事を話した。

「でしょ、本当に椎名くんは良い人だよね」

私は出された夕食を食べていた。

「私って本当幸せ者なんだよね…」

今日の夕食は空揚げが出ていた。
その唐揚げを、お箸でつまもうとするけど、なかなかつまめない。

「あれ…つまめない」

すると、今度はお箸ごと、床に落としてしまった。

「あっ!」

床にバラバラに散らばるお箸たち。
私はお箸を持っていた右手を見る…。

どうして?


『手足を思い通りに動かせなくなる』

昔、脊髄小脳変性症について調べた時、そんなことが書かれてあった。

足……
たしかに、何度もころんだ。

じゃあ、今度は…………手?


「お母さん…手がちゃんと動かない…」

お母さんは黙って、床に落ちたお箸をとってくれた。

「大丈夫よ。大丈夫…」

ぎゅうっと強く、優しく、私を抱きしめるお母さん。
それに、私は涙が出そうになるけど、ぐっとこらえた。

「うん。大丈夫だよね…。私は平気だよ」

自分でそう言って、言い聞かせた。