私の心臓はドキドキする。
椎名くんと顔が近いからかもしれない。
椎名くんと二人っきりだからかもしれない。
でも、私の心臓は、椎名くんの今から喋ろうとする口に集中してドキドキしている。
椎名くんは今から何を言うんだろう。
何て言う言葉を私にくれるんだろう。
「…あのさ――…」
海の風が勢いよく吹く。
その風に、私のワンピースと髪が揺れる。
「……」
「卒業したら…」
卒業したら。
卒業したら…なに?
「卒業したら…、俺と…結婚してほしい」
その瞬間、またもビュゥウウっと風が吹いた。
「ぇ…?」
風に揺れる私の髪の毛が鬱陶しい。
今は椎名くんの顔が見たいのに…。
そう思って、顔にかかった髪の毛を手でどける。
「椎名く…」
椎名くんは下を向いて、耳を真っ赤にしている。
そんな珍しい椎名くんを見て、私も顔が赤くなった。
“結婚してほしい”
…本当に?
本気で…言ってるの?
「駄目…かな?」
下から私の様子を窺うように、椎名くんは覗いて来る。
駄目?
駄目なわけないじゃん。
「うん。…うんっ、お嫁さんに…してくださいっ」
私は涙を流していた。
夢みたい。
こんなに素敵な事がおきるなんて。
だけど、私の涙が、その涙を拭ってくれる椎名くんの手の温かさが、
現実だと教えてくれる。