ひゅうっとなまぬるい風が吹き抜けて、橋の上の2人をあおった。
「――ちなみに"長年探してた"ってのは方便だ。
できれば会いたくもない奴なんだが、こういう…刀狩りみたいなマネをしてるとなるとね、一言言わなきゃならんことがあると思ったのさ。」
ワサビがそう最後につけ加えると、少女の警戒も少しは緩んだようだった。
「――そっか。
ほんとにそれだけなんだよね?」
「ま、アンタの素性に興味が無いじゃないが。それは俺が知ってもなんの得にもならねぇからな。
その辺はとっつかまったときに役人にでもしゃべってくれればいい。」
ワサビの軽口に少女は声を上げて笑った。
「お兄さん変わってるね。捕まえる気が無くてもさ、普通こんな変わったドロボウに会ったらいろいろ聞きたがらない?」
「捕まえたって金になるわけじゃなし。俺もできれば警官にツラ見せたくない事情がある。
――まあ、アンタもけっこう名が通ってきたことだし、いいとこでやめときな。」
そう言うと、軽く手を振って橋を下り始める。
――その背中に、今度は少女が問いを投げかけた。



