「…聞きたい、こと?」
「ああ。」
鉄扇を片手にもてあそびながら、ワサビの片眼はひたと動かない。
「何?名前とか住所とかならもちろんダメだよ?」
素直に問いを待つ少女に苦笑しながら、ワサビはついに10日越しの疑問を舌に乗せた。
「そんなんじゃねぇよ。
――アンタ、"ソウジロウ"を知ってるのか?それを聞きたい。」
唐突かつ意味不明な疑問に、少女はきょとんとした。…ワサビからはその表情は見えないが、あからさまにぽかんとした風情だった。
「…そうじろう?…えーっと…名前だけ?苗字とかは?」
「本名、桐生蒼二郎悠義(ひさよし)。俺が長年探してる男さ。
…知っているのかと聞いてるんだ。」



