(…こんなガキが、なぜ誰の目にも止まらずにあんなマネができたんだ?)
間合いの向こうでじっと殺気を放っている子どもを前に、ワサビの頭にはいくつかの疑問がわいてくる。
――覆面をし男物の作務衣を身につけているが、声から察するに13~15歳くらいの少女だ。
その細い手足を見ても、大の男どもをぶちのめすことができる筋力はまるで感じられない。
そして、この少女はおそらく盗賊行為に慣れていない。
いや、先ほど警官を倒した当て身や身のこなしは大したものだったが、問題はその後だ。
普通なら、盗るものを盗れたらすぐに立ち去る。
それを少女は妙にゆったりと獲物を観察したり、倒した男を介抱したり、物取りらしからぬ行動を見せた。
そして何より、今現在ワサビと対峙していることが妙だ。
初撃は防いだのだ。しかもワサビはその後わざわざ間合いを取ってやったのに、その隙に逃げることもしない。
その上敵に声まで聞かせてしまっている。
何もかもが甘かった。
とても正体を一切知られずに暗躍する盗賊には見えない。



