虎を隠していた闇が薄れる…そう思った瞬間た。
少女は迫り来る殺気に反応していた。
――キィン!
鉄が甲高い声を上げる。
電光石火で抜き放たれた刃は、どうにか虎の牙をしのいだ。
初撃を防がれた敵は、すでに素早く刀の間合いを離れている。
「…鉄扇?!」
その虎の牙は、小ぶりな扇の形をしていた。
決して開くことのないその扇は、武芸に親しむ者が刀の代わりに腰の錘(おもり)としたり、隠し武器として懐にしのばせるために造られた鋼のカタマリだ。
「夜目は利くようだな。この一瞬で武器(エモノ)まで見切るとはね。
さすが"おなご弁慶"、というべきか。」
虎――鉄扇の主が口をきいた。
「…その呼び名、かっこ悪いから嫌いなんだよね。」
隙なく構えなおしながら少女はわらった。
――笑いながら、襲撃者を観察する。
背の高い男だった。齢は20代の後半から30代といったところか。
身軽な着流し姿だ。頭はザンギリでもマゲでもなく、背まで届きそうな長髪を適当にひとつに括っただけ。
まるで一昔前の浪人の格好だ。
その長身のせいもあってひと目で印象に残る風体だったが、一番特徴的なのは、彼の左眼を黒く覆った眼帯だった。



