…ここは。
「く、"くろとら"だな?
聞いたことがあるぞ。」
必死の思いで嘘を吐いた。
それは一か八かの賭けだったが、賽は久坂に良い目に転んだようだった。
首の柔らかい皮膚に食い込むようだった刃の先が、ほんのわずかに圧を弱めたのだ。
「…本当か?」
賊の声がわずかに戸惑いの色を帯びた。
――それを聞いて、久坂は賊が意外と若い…いや、幼い声をしているのに気づいた。
「…ああ、少しだが話に聞いたことがあるぞ。"くろとら"を俺は知っている。」
にわかに全身に体温が戻っていくのを感じる。
(こいつはガキだ。それも12にもならないほどの…
この俺を脅すとは生意気な。斬り捨ててくれるわ。)
相手が非力とみるや、久坂はとたんに強気になった。
――抜刀隊は、その活動中における抜刀と刀の"行使"が許されている。
いわば、斬り捨て御免の警官なのだ。
子どもの賊ひとり斬っても何の咎めもなかろう。



