ふと、以前楡が言っていた言葉を思い出した。
――糸田の姉と、卯月って似てるな
明衣は顔を蒼白にしている早智に振り向いた。
「早智さん、あたしと服取り替えよう!」
「え、うん……?」
明衣は一番後ろの後部座席に移動し、着ていたパーカーに手を掛ける。
「あたしが、囮になってあいつらを撒くから……皆はこの車で駅まで走って!」
「でも危ないわ!」
「だって見付かっちゃうじゃん!」
「龍之介さん、車の運転できますか?」
金切り声を上げた明衣に、楡の冷静な声が割り込む。
龍之介は頷いて、楡を見返す。
楡は言った。
「俺と卯月がこの車を乗り捨てて走る。追っ手の意識が完全に俺たちに向けられたのを確認して、龍之介さんの運転で駅まで向かってくれ。切符は渡しておくから、出来るだけ遠くに行きな。人を隠すなら人の中。公共機関に乗っちまえば奴らも探せないだろうからな」
龍之介は、楡に手渡された切符を持って茫然とする。
明衣は早智を促した。
「さぁ、早く!」
それから数分間、車の後部座席が更衣室になった。



