明衣の表情は無意識に曇ったが、早智はそれに気付かなかったのだろう、苦笑しながら口を開いた。


「本当は嫌よ。龍之介以外と結婚しなきゃならないなんて……。でも、ウチはそんなに裕福じゃないから。私のバイト代を家計の足しにするくらいなの」

「……だから、玉の輿を狙える人と結婚するの」


明衣の純粋な問いに、早智は言った。


「そうすれば、親も安心してくれるわ。真幸だって、バイトしなくても良くなる」


早智は俯いているため、表情はわからない。ただ、哀しげに歪んでいることは確かだった。

明衣は、再度念を押すように尋ねた。


「本当は、嫌なんだよね?」

「……うん」

「龍之介さんと、結婚したいんでしょ」

「うん」


間髪を容れずに答えた早智の反応を見て、明衣は頷いた。


「それだけ聞けたら十分」


早智は不思議そうにぽかんとしていたが、明衣は表情晴れやかに帰路に着いた。