いつも君を見ていたのに

君は僕の視線に気付かないまま

他の男に恋をした。










深海にひっそりと作られた人魚の集落。
僕はここで唯一の魔法使いとして住んでいる。


人魚は体が弱い。
海が汚れると、それは人魚たちにも悪影響を及ぼす。
そんな時に僕の魔法で人魚たちを助けて生存させる。
それが先祖代々受け継がれている役目である。



今日も平穏な日だと思い、書物を読んでいたその時、ドアが開く音がした。



『あの…魔法使いの方、ですよね…?』



振り返ると、君がいた。
少し怯えながらも話しかけて、少し落ち着かない様子で。



『そうだけど、何か用?』



『えっと、その……あの…』



どうやら、言いにくそうだ。
大体は体調が優れないという人魚が来るのだが、そういうわけでもなさそうだ。



そうこう考えていたら、君は決意を決めたらしく、まっすぐ僕を見つめてきた。



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