「…はぁ」
あたしは小さくため息をついた。
「なにため息ついてんのー? 幸せ逃げちゃうぞー?」
「これ以上逃げない」
「? 幸せじゃねーの…?」
「…」
”幸せ”
そんなの…わからない。
好きな人に、キモチを伝えられない…。
幸せ…そんなわけがない。
「…稲実?」
「幸せだよ〜! っていうか、笑っていられるんだよ? 幸せじゃん!」
「…そっか! そうだよな!」
たぶん、あたしは今日の彼の笑顔を忘れない。
笑顔の前に見せた、あの悲しそうな表情も…。
たぶん、あたしが作り笑いをしたって、バレたんだ。

