春が過ぎようとしている。

夏の風が…そっと吹き始める。

「稲実」

そして、そんな風に自分の髪が揺れる。

「ん…?」

あたしの名字を呼んだ彼は、あたしのノートに何かを書いていく。

髪の毛の匂いが、あたしの鼻をくすぐる。

そんな瞬間に、胸が高鳴る。

何か書き終わったみたいで、あたしにそれを見せようとする。

あたしはそれを見た瞬間、吹きそうになってしまった。

ノートに書かれたのは、数学の授業をしている笹木先生の似顔絵。

似すぎて、笑った。