私の家族はそれぞれ普通の人間だから、これと言って楽しいハプニングがあったりしない。

小説や映画のようなドラマがあるワケでもない。

サスペンスのような事件があるワケでもない。


そうなると、自然と私の日常も平凡なモノになる。


事件大好きな私にとってのそれは退屈極まりないけど、そこそこ今の生活も気に入っていた。



大きなアパートが立ち並ぶ閑静な住宅街を歩いていると、前から辞書を持ったユウキが歩いてきた。


同じ社宅に住んでいる大学生で、たまに勉強を教えてもらっているのが彼、ユウキだ。

年上なのに呼び捨てな理由は、ユウキがあまりにも弱々しくヘタレだから。

度の強い眼鏡が無ければそれなりにカッコいいと思うのは私だけかもしれない。


真面目という言葉を人にしたような感じの奴だ。


「ちーっす、ユウキ」

「あ、桃華(モモカ)さん」


何故かユウキは私の事をさん付けする。

そして何故か腰がかなり低い。


「辞書見ながら歩くとまたコケるよ?今日も塾?」

「気を付けますね…。モモカさんもちゃんと勉強して下さい」

「バイバ〜イ」


余計な事を言ったので、二三言葉を交わしただけで速攻別れた。


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