「……機嫌が悪いですか?」
話しかけても返事がない。
御影と真坂が帰ってから、ずっとこう。
「もう、いいや。私、寝ます。明日は普通に話しましょうね」
長年の寮生活で学んだことを活かし、綾菜は気を取りなおした。
人間だから、機嫌のいいときも悪いときもある。こういうときは、無理をせずそっとしておくほうがいい。
「……髪」
背中に届いたのは、今日はもう聞けないと諦めた、低く甘い声。
綾菜はくるりと振りかえった。
「髪を濡らしたままで寝るんじゃない」
久我は、すでにドライヤーの準備をはじめている。
うれしくて、綾菜はパタパタと駆けよった。
飼い主に呼ばれた犬ってこんな気分かもしれない。
