久我がすっと綾菜の背中に回った。
そのまま腕を伸ばされ、背後から抱きしめられる格好になる。
「く、久我さん?」
「このくらいくっついたら、二人でも入れる。試してみるか?」
ようやくリアルに想像した。
知らない誰かではなく、久我と自分とが小さい湯船に入る姿。
――無理。
頬が急に熱くなった。
「久我さん……。気絶したくないので、男のひとだと意識する前に離れてください」
魔王、このひとは魔王。
人間ではない。
気を抜いたら、終わりな気がして、綾菜は必死で自分に言いきかせた。
「意識してみろよ」
耳元で甘い声を聞かせないでほしい。
声が直接、頭に響いて痺れてしまう。
もうダメかも。
綾菜はぎゅっと目をつぶった。
