「お風呂、最高!」
大浴場での湯船を楽しんだ綾菜は、ごきげんで部屋に続く廊下を歩いた。
イギリスの寮にあったのは、共同のシャワールーム。浴槽に浸かることがこれほど至福だとはずっと知らなかった。
反動なのか、日に日に長湯になっている。
「ちょっと、ゆっくりしすぎたかな。あんまり遅いと久我さんが心配するかも」
「わかっているなら、もっと早く戻ってこい」
ここでするはずのない声。
「まさか、いるの?」
恐る恐る角を覗いてみる。
「いた」
案の定というべきか、腕組みをした魔王がそこに立っていた。
「一時間以内に戻ると言った口はどの口だ?」
「この口です」
もう少し、と思っているうちに二時間近く経ってしまった。
途中で気絶したのでは、と心配してくれたのがわかっているから、反論はできない。
