どんなに動揺していても、状況くらいはわかる。

 このひとは、倒れた自分を運び、しかもずっと付き添っていてくれた。

 非礼は許されない。

「大丈夫ならよかった」

 男までの距離は約三メートル。

 このくらい離れていれば、話しかけられてもあまり不快ではない。

 なんとか乗りきることができそうだ。

「こちらこそ、迷惑かけてすみません」

 失礼にならないよう、勇気をだして顔をあげる。

 ずいぶんと綺麗な男のひとだった。

 切れ長で少しきつめの意志の強そうな瞳。

 中世の騎士が着る鎧を着たらとても似合いそうな気がする。

 イギリスの同級生たちがいたら、間違いなく大騒ぎだ。